戦場指揮用のソフトウェア
GIS Artaとはウクライナ軍が使っている戦場指揮用のソフトウェア。
ウクライナ軍の重火器にはGPSが付いていて、移動するたびに座標位置が更新。敵の座標を入力するとその攻撃対象に指向できる重火器の一覧がGIS Artaの画面上にリアルタイムに表示。ドローンなどの偵察情報でロシア軍の位置が判明すると、指揮官は最短一分で砲弾を発射することができる。ウクライナ軍の15センチ榴弾砲がソ連の戦車や装甲車などの移動可能な目標にバシバシ命中しているのは、即応時間のきわめて短いこのシステムを使って戦闘しているからです。
システムは、ウクライナ人のプログラマーがイギリスの企業と開発。ロシアが一方的に南部クリミアを併合した2014年からウクライナ軍で使用され、砲兵部隊で広く使われています。アメリカの配車サービス大手のウーバーが最も近い運転手と乗客をマッチングすることになぞらえて、“大砲のウーバー”とも呼ばれています。
システムの運用を支える高速のインターネット網
戦地では、宇宙開発企業の衛星を使った高速インターネット接続サービスが活用されている。
衛星インターネットアクセスは、2010年代に入るまでは、赤道上空の高度3万6000キロメートル付近に配置された静止衛星によって提供されてきました。しかし静止衛星は地上からの距離が遠く、通信速度の遅さや遅延の大きさなどに課題がありました。また高緯度では、赤道上空の衛星に向けて低い角度でアンテナを構える必要もありました。これら静止衛星の課題を解消するのが、低軌道の「衛星コンステレーション」を利用するというアイデアでした。衛星コンステレーションとは、安価な小型衛星を多数打ち上げて、互いの衛星をネットワーク化する仕組みです。「コンステレーション」には「星座」「星の配置」の意味があり、協調して働く一連の人工衛星群を星座に見立てて、このように呼ばれます。
衛星コンステレーションによる通信サービスでは、低軌道の場合は上空2000キロメートル以下、中軌道の場合で2000〜3万6000キロメートルと、静止衛星より地球に近い位置に衛星が配置されます。このため、従来より高速で低遅延なアクセスを実現できるのです。また人工衛星が極軌道を通るため、従来は衛星インターネット通信を利用できなかった北極域・南極域周辺でも通信が可能です。
衛星コンステレーションでは、衛星1基あたりの開発コストを抑えることができ、打ち上げ時や運用時のリスクも軽減できます。そこで2010年代以降、衛星コンステレーションによるインターネットアクセスへの取り組みを表明する企業が相次いで登場しました。SpaceXは2022年中に世界のほぼ全域でサービスを展開できるよう、約1600基の衛星を配備する計画です。
日本では、KDDIが2021年9月、SpaceXとの業務提携を発表。山間部や島しょ部など、全国約1200箇所の遠隔地から追加料金なしでStarlinkのブロードバンド通信サービスが利用できるよう、順次導入を進める計画です。
衛星インターネットアクセスの問題
衛星インターネットアクセスにも、雨や雪、湿気による信号の減衰や、衛星同士、基地局同士の連携の複雑さなどに課題があります。また多数の衛星を運用するがゆえに生じた問題も存在します。その1つが「光害」問題です。たとえば、低軌道で周回するStarlinkの人工衛星は、地上からでも観測できます。1度に60基が打ち上げられると、その直後は連なる光の軌跡が現れ、しばしばUFOと見間違えられるほどです。この衛星の列が常に数百基、上空に存在することによって、天文台による星の観測には支障が出ています。