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現代社会の特徴 大量生産と大量消費 ⇒ 人間の欲望を市場経済が表現したもの
現在、物質主義的な文化、生産性中心の考え方は主流な考え方です。そんな現代の経済文化を批判し、環境問題の深刻さを世界的に伝えた人物が、シューマッハーでした。
エルンスト・フリードリヒ・シューマッハー
エルンスト・フリードリヒ・シューマッハー(1911-1977)はドイツ生まれのイギリスの経済学者です。石炭公社での勤務経験と経済学者としての知見を持ち合わせており、経済分野の特に環境関連について詳しく言及したことで知られています。
彼の著書には「スモール・イズ・ビューティフル」「人間復興の経済」などがあります。
シューマッハーは「スモール・イズ・ビューティフル」を通して、現代の資本主義的経済社会、つまり大量生産大量消費の世界を批判しました。私利私欲にまみれた経済は環境問題や格差問題などの多くの問題を引き起こしています。
これらの問題にまでしっかりと目を向けることが大切なのです。
現代的な物質主義や消費主義を批判し、環境問題に取り組むことの重要性を訴え、世界的なベストセラーになりました。
【目次】
1 現代世界
1.生産の問題
2.平和と永続性
3.経済学の役割
4.仏教経済学
5.規模の問題
2 資源
1.教育――最大の資源
2.正しい土地利用
3.工業資源
4.原子力――救いか呪いか
5.人間の顔をもった技術
3 第三世界
1.開発
2.中間技術の開発を必要とする社会・経済問題
3.200万の農村
4.インドの失業問題
4 組織と所有権
1.未来予言の機械?
2.大規模組織の理論
3.社会主義
4.所有権
5.新しい所有の形態
結び
シューマッハーの人と思想
年譜
なくならない環境問題
産業革命以降、世界の経済は大きな成長を遂げてきました。
「スモール・イズ・ビューティフル」が出版された20世紀後半は特に、人間には解決できない問題なんて存在しないんじゃないか?という、過度な万能思想が蔓延していました。
シューマッハーはこの状況にメスを入れます。彼は当時の経済社会が、人間は天然資源を無制限に利用でき、神のような立場にある、という思い込みの上に成り立っていた、ということを指摘します。
人間が作り出した商品には価値があるが、それ以外(特に自然環境)には価値がない、という思想を、痛烈に批判したのです。
当時の人々は、いつかは無くなってしまうはずの減少する天然資源ですらも、所得として考えていました。例えば、一時期のアメリカでは世界に存在する資源の40%を使用していた、というデータもあります。
永続的な社会
大量消費と大量生産を続ける世界では、いつか資源不足や環境問題などの問題によって人類が滅んでしまいます。
シューマッハーが目指したのは、地球環境に配慮した永続的な(サステイナブルな)社会の在り方でした。彼のいう永続性のある社会とは、必要以上に求めるのではなく、地球に今存在しているものと、人類が本当に必要なものを理解したうえで、適度な発展を継続的に続ける、安定した社会です。
しかし、これを達成するのは非常に難しい
現代にも続く資本主義は、貪欲さや嫉妬心によって形作られています。人間は、いくら経済が発展し大量に消費しても満足することができません。
シューマッハーも、人間が豊かさを求める限り、生産と消費を消すことはできない、と認めています。
経済学は現代文明を築き上げる基礎となった学問
大きな問題点が存在していると、シューマッハーは言います。それが以下のポイントです。
- 経済的・生産的でないものは非難される
- 需要と供給の関係性を市場取引という観点からしか見れない
経済学では収益を上げること、生産性を高めることが最優先されます。それはつまり、不経済と思われるものが全て非難の対象になることを示しています。
この経済学が作り出す風潮は、収益追求が社会の劣化に繋がる危険性がある、という事実を覆い隠してしまいます。
経済的な観点から見て正しいものが、社会や公共に利益をもたらすものと一致するわけではありません。環境に深刻なダメージを与えてしまうような行為であっても、経済的である、と認められることだってあるのです。
また、経済学では人間をより科学的・数学的にとらえます。消費者と供給者の関係性に関しては、需要と供給、そして市場価格という要素だけから考えます。つまり、人々の経済行動を市場取引という観点からしか観察できないわけです。
経済学では、商品を購入する際に買い手が気にする要素は、価格が高いか安いかだけなのです。
シューマッハーは現在の消費中心の経済学に対抗し、仏教経済学を提唱
仏教経済学における最大の特徴は、簡素と非暴力。自給自足的に必要以上を求めない社会を生きることは、平和な生き方を意味します。これはまさに資本主義的経済学の、自己の利益だけを追求し大量に消費した者が幸せである、という主張の正反対です。
仏教では、文明の発展は人間性の鈍化につながることを主張します。人間は社会が繁栄すればするほど、欲深くなっているのかもしれません。これから先の未来、ロボットが人間の労働を代替するとすれば、人間はさらに堕落してしまうでしょう。
シューマッハーが唱えた経済学の理論に中間技術(現在では適正技術と呼ばれる)
「典型的な途上国の土着の技術は、いわば一ポンド技術であり、一方先進国の技術は千ポンド技術といえる。いちばん助けを必要としている人たちを効果的に助けるには、一ポンド技術と千ポンド技術の中間の技術が必要である。それを、これまた象徴的に百ポンド技術と呼ぼう。」
シューマッハーは中間技術を通して、人間の潜在的な能力を引き出すことを目指しました。大規模な資本主義的工業生産技術ではなく、自立的で大衆に迎合する形の技術です。これらは急激な経済の成長を阻止する役割を果たします。
経済成長と軍事力は非常に密接に関わっています。国家が経済力を望めば望むほど、世界は大量生産・大量消費を目指し始め、多くの競争が生まれ、環境問題や格差問題が生まれるのです。だからこそシューマッハーは、発展のスピードを遅める中間技術こそが、社会の幸福と平和を増やすことになると考えました。