国産レアアース資源の開発
レアアース泥は水深5000mを超える深海底にあります。レアアース泥の開発システムとしては、海洋石油生産で多く用いられている「浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備 (Floating Production, Storage and Offloading system: FPSO)」を応用したシステムを使用します。海底からレアアース泥を揚げるためには「エアリフト」という技術を用います。これはパイプに圧縮空気を送り込んで泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き揚げるものです。
揚泥されたレアアース泥からは、希塩酸を用いてレアアースをリーチング(浸出) します。このリーチング溶液を陸上工場へ輸送し、レアアースを分離・精製します。
また、残泥には水酸化ナトリウムを添加することで中和・無害化し、埋立資材やセメント資材、環境資材として使用します。

国産レアアース・バッテリーメタル資源の開発で、重要鉱物の経済安全保障を確立
レアアースはテレビやデジカメ、携帯電話、パソコン、ハイブリッド/電気自動車など、私たちの日常生活に欠かせない様々なハイテク製品に使われています。たとえば、ネオジムやジスプロシウムを使った小型かつ強力なレアアース磁石によって、電気自動車のモーターや携帯電話のマナーモードの振動が実現されました。そのほか、地球に優しいLEDや燃料電池のほか、インフルエンザ治療薬やMRI造影剤などの医療分野、さらには航空宇宙産業や安全保障分野にもレアアースは重要な役割を果たしています。これからの次世代産業や先端技術開発に必要不可欠な材料であり、レアアース産業の経済規模は年間5兆円に上ります。

レアアース(希土類)とはレアメタルの仲間で、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17元素の総称です。また,ランタンからサマリウムまでの6元素を軽レアアース、ユウロピウムからルテチウムまでの9元素にイットリウムを加えた10元素を重レアアースと呼びます。特に、重レアアースは産業上の重要性が高い元素群です。また、最近はスカンジウムの重要性も広く認知されつつあります。

レアアース泥
「レアアース泥」は、
(1) 高いレアアース含有量を持つ (特に重レアアースやスカンジウムに富む)、
(2) 深海底に広く分布しており、資源量が膨大、
(3) 層状に分布するため探査が容易、
(4) 開発の障害となるトリウムやウランなどの放射性元素をほとんど含まないクリーンな資源、
(5) 希塩酸などで容易にレアアースが抽出可能である
など、資源開発に有利な特長をいくつも兼ね備えた、まさに「夢の泥」といえるものです。

レアアース泥が我が国の排他的経済水域である南鳥島周辺の海底に広く分布。これにより、日本がレアアース資源を独自に開発。この南鳥島で見つかったレアアース泥は、中国の陸上鉱山の20倍の品位を持つ、世界最高品位の「超高濃度レアアース泥」です。私たちの研究成果によると、およそ100 平方キロメートルの有望エリアだけでも、日本の年間需要の数十年から数百年分に達する莫大な資源ポテンシャルをもつことがわかっています。



南鳥島周辺海域に、広大な「マンガンノジュールフィールド」を確認

南鳥島周辺で見つかった密集域の面積は約61,200 km2で、四国と九州を足し合わせた面積と同じ広さであることが分かっています。未調査の海域を調べればさらに新たな密集域が見つかる可能性があります。
南鳥島マンガンノジュールはコバルトに富んでいるのが特徴で、“国産のコバルト資源”として注目されています。
試算では、現在見つかっている密集域の中だけでも、約9.4億トンのマンガンノジュールが存在し、コバルトの資源量は約470万トンにもおよぶことが分かっています。これは、国内の年間のコバルト需要の300年分に相当します。
2024年6月には、日本財団の委託を受けてより詳細な調査を行い、10,000 km2以上という広大なエリアにマンガンノジュールが連続的に分布していることを確認することができました。このエリア全体には2.3億トンものマンガンノジュールが存在しており、この有望海域だけでも日本の年間消費量の75年分以上のコバルト資源を見込めることが判明しています。私たちは日本財団とともに、商用化を見越して1日に数千トン規模でマンガンノジュールを揚鉱する実証試験を計画しています。


